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神戸地方裁判所 平成8年(ワ)1072号 判決 1996年12月19日

原告

菱田みよ子

被告

久保紋綺こと姜紋綺

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し金三八三九万八六二九円及びこれに対する平成七年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自、原告に対し五三五六万九四七〇円及びこれに対する平成七年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故により死亡した訴外亡菱田和宏(以下「和宏」という。)の母である原告が、被告らに対し、民法七〇九条もしくは自賠法三条により、損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

1  事故の発生

次のとおりの事故「以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成七年六月七日午後九時頃

(二) 場所 神戸市長田区一番町一丁目四番地先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 加害車 普通乗用自動車

保有者 被告朴正子(以下「被告正子」という。)

運転者 被告姜紋綺(以下「被告紋綺」という。)

(四) 被害車 自動二輪車

運転者 和宏

(五) 態様 和宏が、被害車を運転し、本件交差点を西進中、同交差点まで東進し、右折しようとした被告紋綺運転の加害車に衝突された。

(六) 結果 和宏は、右衝突により、胸部を打撲し、右心房破裂により即死した。

2  被告らの責任

(一) 被告正子は、本件事故当時、加害車を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故による後記損害を賠償する責任がある。

(二) 被告紋綺は、本件事故当時、右折するに当たり、進路の前方左右を注視し、進路の安全を確認して進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、進路左方向の安全を不確認のまま発進進行し、直進車である被害車の進行を妨げた過失があるから、民法七〇九条に基づき、後記損害を賠償する責任がある(甲八、原告及び被告紋綺各本人)。

3  身分関係及び相続

和宏の相続人は、母である原告と父である菱田敏夫であるところ、原告と菱田敏夫は、平成七年七月一一日、本件事故により和宏に生じた損害賠償請求権全部を原告が取得する旨の遺産分割協議をした(甲五の一ないし三、一三、原告本人)。

二  争点

1  過失相殺

2  損害額

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  被告らは、過失相殺の主張をしないが、公平の原理に基づき、職権により過失相殺につき判断する。

2  証拠(甲八、一三、原告及び被告紋綺各本人、弁論の全趣旨)によると、次の事実が認められる。

(一) 本件現場は、別紙交通現場見取図(以下「見取図」という。)のとおりであり、片道五車線の幹線道路である。本件事故当時、神戸高速鉄道の補修工事がなされており、そのため、見取図記載のとおり、中央部の各三車線の一部が通行止めになり、工事用規制フエンスが設置されていた。

(二) 被告紋綺は、本件事故当時、免許取消処分を受け、無免許の状態であつたが、加害車を運転して東進し、本件交差点を右折しようとし、中央分離帯を越え、西行車線の中央付近まで進んで停止し、数分、同車線を西進中の車両が途切れるのを待つていた。加害車のすぐ東側に同じく右折待ちのため停止していたタクシー(以下「A車両」という。)があつた。

被告紋綺は、西進中の車両が途切れたため、左右の確認をして二七・三メートル東の停止線前に普通乗用自動車(以下「B車両」という。)が停止しているのを確認し、A車両のため左方の確認が十分ではなかつたが、A車両が発進したため、自車も発進できると考え、発進して七・三メートル前進したところ、A車両との間を西進して来た被害車を一・八メートル東に発見し、急ブレーキをかけたが、衝突した。

右衝突により、和宏はその場で転倒し、加害車は六・一メートル前進して停止した。

(三) 本件交差点の信号サイクルは、全周期一六〇秒で、和宏が対面する西行車両用信号は青色表示が八二秒後に黄色に変わり、その四秒後に赤色表示になり、北行車両用信号は、西行車両用信号が赤色表示になつて三秒後に左折青矢印表示(赤色表示)が出、その一四秒後に青色表示に変わる。

(四) 被告紋綺は、本件事故に関し、無免許運転により罰金八万円に処せられたが、業務上過失致死の点については不起訴処分であつた。

3  被告紋綺の供述中には、本件事故直前に発進するにあたり、前方の南行の対面信号が青色表示になつていることを確認したとの部分があるが、右認定の本件交差点の信号サイクルによると、西行信号の表示が赤色になつてから一七秒後にならないと、北行車両用信号同様、南行車両用信号も青色表示に変わらないと推認されるから、右認定の状況等に照らして右部分は採用できない。

4  右認定によると、和宏は、対面信号の表示が何色表示のとき、本件交差点に進入したが明確ではなく、B車両が黄色表示により停止し、その直前に被害車がいて、対面信号が青色表示であるとき同交差点に進入した可能性を全く否定することはできない。しかし、隣に停止していたA車両が発進しているところから、被害車がB車両よりも相当前を進行していたとは考えられないから、和宏は、対面信号が青色表示よりも黄色表示のとき、本件交差点に進入した可能性の方が高いというべきである。

従つて、和宏が、信号を無視した可能性があるものの、無視したとまでは断定できないところ、前方注視義務を十分に尽くしていないことは明らかであるから、相当の過失があるといわざるをえない。

他方、被告紋綺は、右折するに当たり、前方左右の確認が不十分であつたため直進車である被害車の進行を妨げたことは前記のとおりであるから、その過失は大きいというべきである。

そこで、その他本件に現れた一切の諸事情を考慮のうえ、和宏と被告紋綺との過失を対比すると、その過失割合は、和宏が三〇パーセント、被告紋綺が七〇パーセントとみるのが相当である。

二  争点2について

1  和宏分

(一) 逸失利益(請求及び認容額・二九三六万五四七〇円)

証拠(甲四の一・二、六、一三、原告本人、弁論の全趣旨)によると、和宏(昭和五一年六月一日生)は、本件事故当時、一九歳の男性で独身であり、会社に勤務して年収二四三万四三一二円の給与を得ていたことが認められる。

右認定によると、和宏は、本件事故がなければ六七歳に達するまでの四八年間、二四三万四三一二円の収入を得られたものと推認でき、その生活費としては五〇パーセント程度を要するものとみるのが相当である。

すると、和宏の逸失利益は次のとおり頭書金額となる(円未満切捨)。

2,434,312×(1-0.5)×24.1263=29,365,470

(二) 慰謝料(請求及び認容額・二〇〇〇万円)

本件事故の態様、結果、和宏の年齢、職業及び家庭環境等、本件に現れた一切の諸事情を考慮すると、同人の慰謝料としては頭書金額が相当である。

(三) 相続

原告が和宏の母で、本件事故により和宏に生じた損害賠償請求権全部を原告が取得する旨の遺産分割協議がなされたことは前記のとおりである。

2  原告関係

(一) 葬儀費用(請求及び認容額・一二〇万円)

証拠(甲一二の一ないし五、一三、一四、原告本人、弁論の全趣旨)によると、原告は、和宏の葬儀を執り行ない、その諸費用として一二〇万円以上を支出したことが認められる。

右認定に和宏の年齢、職業等を考慮すると、同人の相当な葬儀費用は頭書金額となる。

(二) 検案書料(請求及び認容額・四〇〇〇円)

証拠(甲三、七、原告本人、弁論の全趣旨)によると、原告は、和宏の検案書料として四〇〇〇円を支出したことが認められる。

3  過失相殺

和宏の過失が三〇パーセントであることは前記のとおりであるから、その割合で過失相殺することとする。

すると、その後に、原告が請求できる損害賠償金額は前記1、2を合計した五〇五六万九四七〇円の七〇パーセントである三五三九万八六二九円となる。

6  弁護士費用(請求及び認容額・三〇〇万円)

本件事案の内容、訴訟の経過及び認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は原告主張の三〇〇万円を下らない。

第四結論

以上のとおり、原告の本訴請求は、被告らに対し、各自、損害金三八三九万八六二九円及びこれに対する本件事故の日である平成七年六月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとする。

(裁判官 横田勝年)

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